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「建築」から「造景」へ 「[場所]の復権 都市と建築への視座」(平良敬一 編著/建築資料研究社)

 造景双書の1冊として、平良敬一による対談集『「場所」の復権』が刊行された。対談の相手は、磯崎新、槇文彦らの建築家から伊藤鄭爾、川添登らの歴史家、批評家まで十六人にのぼる。その対談のシリーズの根底にあるのは、単体の建築よりも、その建築が集まり形成される都市への問題意識である。

 「造景」とは、あまり見かけない言葉である。造型でもなく、造家でもなく、「造景」である。(日本で最初につくられた大学建築学科は、当初造家学科と呼ばれていた。)フランスの地理学者オギュスタン・ベルクの著書に「日本の風景・西欧の景観-そして造景の時代」というものがある。彼は、西欧における近代の風景の危機から生まれたポスト二元論と、大いなる風景の伝統を持つ東アジアの非二元論に対して、それら二つの総合から出てくるであろう新しい風景を「造景」と呼んでいる。単なる建築づくり、まちづくりを超え、新たな都市をつくり、あるいは再生していくという時に風景、景観という視点からの創造、ベルクの言う「造景」は新たな実りをもたらすように考えられる。

 平良敬一は、すぐれた編集者であり、多くの建築雑誌に関わってきた。しかもその大部分は、自らが創刊に関わったものであるという。1950年代に「国際建築」、「新建築」の編集部を経験し、その後「建築知識」、「建築」、「SD」、「都市住宅」を創刊した。1974年には、建築思潮研究所を設立し代表となり、本誌「住宅建築」や雑誌「造景」を創刊し、それぞれ初代編集長をつとめている。その編集者としての軌跡を眺めていると、建築単体を題材とする雑誌から出発し、そこから空間やアート、都市への視座と領域を広げ、やがて建築の最も根源的な存在である住宅と、建築が集まりつくりだされる都市の問題へとたどり着いていることが分かる。それぞれの時代の中で、平良は時代から影響を受け、また時代に影響を与えてきた。

 十六人にものぼる建築家、歴史家、批評家、建築学者は、平良の長いキャリアの中で、その時々に登場してきた人たちであるが、この対談シリーズは、平良の都市や環境に対する問題意識につらぬかれている。したがって建築家と対談する時にも、個別の建築作品に関する対話というよりも、個々の建築から広がる都市への眼差しに関わる話となっている。それゆえ、個々の作品集などで見られるものとは、違った切り口での建築家の発言が多く見られる。平良が引き出したかったのは、まさに普段は見えない、しかし今最も必要とされているそのような切り口の対話であろう。建築から造景への時代である。

(「住宅建築」2006年2月号)

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