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「フランク・ロイド・ライトの帝国ホテル」(明石 道信 著、村井 修 写真/建築資料研究社)

近代建築の巨匠と呼ばれるフランク・ロイド・ライトとル・コルビュジェは、それぞれ異国である日本の東京に建つ建築を設計した。ライトは帝国ホテルを、ル・コルビュジェは国立西洋美術館を設計した。共に自らの活動のベースであるアメリカやフランスでは当時手がける機会のなかった大規模で公共的な建築の設計であった。ライトの帝国ホテルは、1923年すなわち大正12年9月1日、関東大震災のあったその日に落成式の日を迎えた。第二次大戦後、不同沈下が引き起こした亀裂に起因する漏水、凍害による大谷石の落下の危険等を理由として取壊し改築が決定され、竣工から44年目の1967年から解体が行われた。中央玄関部分は明治村への移築が決定され、1980年に再現公開された。一方国立西洋美術館は、1959年に落成し、39年後の1998年に免震レトロフィット工法による保存改修が行われ、現地でそのままの形で耐震補強が施され、前川事務所による増築も行われた。共に竣工後、約40年を経て大きな改変時期を迎えたが、建った時期、ビルディング・タイプの違い等によるその結末の違いは、両極端であると言える。

その帝国ホテルの解体に際して、村井修氏による写真と共に、早稲田大学の明石信道教授によって約1年間に渡り詳細な実測が行われ図面としてまとめられた。それらは、明石教授の論考と共に1972年B4版変型420ページの大部で高価な著「旧帝国ホテルの実證的研究」として刊行され、明石教授はその業績により1973年日本建築学会賞を授与された。ライトの建築は、図面が出来上がり現場に入ってもスタディは続けられ、それは建築の完成まで終わることがなかった。従って、設計の際の図面と竣工した建物とは別ものであり、解体の現場に身を置いて中の構造、仕組みも見つつ実測しながらつくられた図面は、設計図でもなく、また表面だけを測った単なる実測図でもない独自の価値を持つものとなっている。香山壽夫は、それを「ライト建築の『解体新書(ターヘル・アナトミア)』」と評している。その今や入手できない大部の著が、今回約30年ぶりにA4版変型168ページの書として甦った。図面、写真、テキストなど主要なものは収録され、手に入りやすく、見やすいかたちに編集されている。帝国ホテルの建築の全体像から、細部の装飾、家具までを図面、写真、論考と多面的に読むことができる貴重な書である。

(「住宅建築」2004年8月号)

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