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「ハウジング・コンプレックス-集住の多様な展開」(井出建 ・ 元倉眞琴/ 編著 彰国社)

 集合住宅の設計は、日本では1970年代以降建築家にとって重要なテーマとして、さまざなな提案や議論が展開されてきた。「ハウジング・コンプレックス-集住の多様な展開」と題されたこの書では、18の建築を通してその主題から広がった集合住宅の多様な様相を明らかにしている。

 公団住宅が、昭和40年代後半に量から質への転換、ニーズの多様化、敷地規模の狭小化などへの対応により標準設計を廃止し、一団地、一住戸ごとの個別設計へと転換していったのと時を同じくして、1970年代以降に建築家たちは集合住宅の中にさまざまなアイディアを盛り込んでいくつもの優れた建築を生み出してきた。 この書ではその30年間にわたる集合住宅設計の展開を見るために、複数の集合住宅を手がけてきた18人の建築家を選び、その上でそれぞれ一つずつ計18の建築を選んでいる。 筆者たちは今の時点で改めてその建築の建つ地に足を運び、時間が経過した中で、それぞれの集合住宅の生活空間に目を向けようとしている。

 内井昭蔵の桜台コートビレジや坂本一成のコモンシティ星田のように、その建築家の代表作と言える建築を選ぶ一方で、槇文彦は代官山ヒルサイドテラスではなく金沢シーサイドタウンを、藤本昌也は水戸六番池団地ではなく広島市鈴ヶ峰住宅第Ⅱ期を選んでいる。公営によるものと民間のデベロッパーによるものはほぼ半々であり、コーポラティブによって建てられたものにも目を配っている。それらのことからも、この30年間の集合住宅の展開を18の建築を通して全体として幅広く見ていこうとする意図が伺える。

 竣工後時間を経てきた今のハウジングの状況を丹念に生き生きと撮影した多くの写真と共に、配置図、住戸平面図を基本として重要な部位についてはディテール図が掲げられ、足を運んだ筆者によるリアルな観点から説明が加えられる。その説明は、時に同じ建築家による他の集合住宅にも及んでいる。それは生活の器としての集合住宅をいかに読むかという問いに対する優れた解答であり、同時に生活の器としての建築に対する優れた批評となっている。 時間という容れものの中で、生活空間がいかにデザインされてきたかを読むうちに、時がかたちづくる集住の豊かな風景を展望し、次の展開への糧を吸収することができる。

(「住宅建築」2002年2月号)

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