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「Perfect Collection 知られざるPC建築」Array

 PC建築は、Precast Concrete(プレキャストコンクリート)、 Prestressed Concrete(プレストレストコンクリート)の双方の技術の上に成り立つものであり、そのPC建築の Perfect Collectionを目指してつくられたのが、この本である。プレキャストコンクリートは、鉄筋コンクリートの製品を、あらかじめ(プレ)前もって工場でつくって現場で組み立てる。環境条件がある程度一定で設備の整った工場でつくるので、密実で強度の高いコンクリートができる。またプレストレストコンクリートは、コンクリートにあらかじめ(プレ)前もって、ストレス(圧縮力)を加えておいて、引っ張りの力が働いても既にある圧縮と相殺し、コンクリート部材の圧縮場を維持しようとする。圧縮には強いが、引張りには極端に弱いコンクリートの材料特性をカバーする技術である。それらコンクリートの特性をさらに引き出すPC技術を用いることにより、どのように豊かな建築の世界ができるのかを、多くの写真、図面、解説によって明らかにしたのが本書である。

 この本をながめていると、それぞれ個別に名建築として知っていたものが、実はPC建築の技術によって可能になったことを知る。ヨルン・ウッツオンによるシドニーペラハウス、ルイス・カーンよるペンシルヴァニア大学リチャーズ゙医学研究所、菊竹清訓による出雲大社庁の舎などである。各建築には、竣工した姿の写真だけでなく、模型写真、工事写真、構造の考え方を最も的確に表わす図面が添えられ、解説が付け加えられている。それを読むと、例えばリチャーズ医学研究所においては、敷地が極めて小さく、大型重機を用いたり、資材を置くスペースがなく、そのような状況で施工できる工法を考えなければならなかったことがわかる。したがって工場で生産された部材を現場まで運搬し、モビールクレーンによって組み立て、ポストテンションで一体化する工法が採用されたのである。

 敷地条件、建築形態などそれぞれ固有の条件下で豊かな着想のもとに構想されたアイディアが、PC建築の技術と出会い、PCによって現実の建築となっていく過程、PCだからこそ成立する建築の意味,表現,機能を、豊かなPerfect Collectionの中に見ることができる。本書によってPC建築の魅力を知ったものは、それをさらに現実のものとしていく手立て―PC建築を進めていく設計プロセス、PC建築のディテールなど―を本書で触れることができる。

(「住宅建築」2005年2月号)

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